酒場案内人 塩見なゆが酒屋角打ちフェスに携わる酒屋さんを訪問し、店舗の魅力や出品銘柄をご紹介するコラム。今回は東京都中央区 日本橋久松町にある「大黒屋深沢 sakeてらす」を訪ねます。
いま、ビルの上の角打ちが熱い!
皆さんは「角打ち」と聞くと、どのようなお店を思い浮かべますか?路面店にある酒屋さんの店頭に併設された立ち飲みコーナーをイメージする方が多いのではないでしょうか。そのような一般的な角打ちだけでなく、近年ではビルのフロアを丸ごと使った、より個性的なお店が増えてきています。こうしたお店では、個性豊かな酒屋ならではの、さらに個性的なお酒が揃っており、お酒好きや角打ち好きの心を掴みます。
今回訪れた『大黒屋深沢 sakeてらす』は、ビルの3階にあるそんなお店です。個性的なお酒がずらりと並び、その場で味わうこともできます。少し入りづらい雰囲気かな?と心配される方もいらっしゃるかもしれませんが、ご安心ください。優しいご夫婦が営むアットホームなお店ですので、ぜひエレベーターで3階まで足を運んでみてください。
東日本橋駅から徒歩1分というアクセスしやすい場所。清杉通りと清洲橋通りの交差点に面した焼鳥店の3階にあります。営業時間は15時からで、店先のPOPが営業中の目印です。
エレベーターの扉が開いた瞬間、目の前に広がったのは、無垢のテーブルが並ぶ、まるで秘密基地のような角打ちスペース。通りを歩いているだけでは、絶対に辿り着けない、大人の隠れ家です。
静かなブームの熟成酒を気軽に味わえます
今回取材を受けてくださった大黒屋深沢 sakeてらすの西郷さん。品揃えの特長について伺います。
まちの酒屋さんはそれぞれ個性がありますが、『大黒屋深沢 sakeてらす』さんもおもしろいラインナップですね!
ありがとうございます。酒蔵との関係性を大切にしていて、しっかり蔵へ足を運び、本当に良いと思ったお酒を仕入れています。
また、当店の特徴の一つとして、日本酒の熟成に力を入れている点が挙げられます。様々な蔵元の日本酒を寝かせることで、味わいに深みが増し、個性的な風味を生み出します。この熟成酒の魅力に気づいたきっかけは、実は個人的に楽しんでいる梅酒づくりでした。寝かせることで生まれる味の変化に興味を持ち、それが日本酒の熟成酒へとつながっていきました。
山口県の永山酒造がつくる山猿を寝かして、これをアイスクリームにかけて食べたら美味しくて驚きました
蔵元が熟成酒として発売しているお酒ではなく、お店で寝かしているのですね!
はい、まずはフレッシュな状態を味わい、経験上、これは寝かしたら美味しくなると思ったら、仕入れて店内で常温保管します。もちろん、フレッシュなお酒をメインに販売していますが、店で熟成させ、味を育てたお酒の提案もしています。角打ちとして1杯から提供していますからぜひ味わってみてください
山猿の熟成酒って、こんなに香ばしく深い味になるんですね!ケーキやアイスクリームともよく合いそうです。味を例えるのが難しいですが、泡盛のような香ばしさが感じられます
『大黒屋深沢 sakeてらす』は量販酒店や百貨店ではみかけない、希少銘柄を豊富に揃えているだけではありません。熟成酒の酒屋さんとしてもとっても魅力的です。常時10~30アイテムの熟成酒を取り揃え、1杯単位で味わうこともできます。これも、いまの時代の角打ちの楽しみ方ではないでしょうか。
ロックなご主人と、棚田を応援する女将さん
ロックファンを魅了するお酒
メインとなるお酒は、全国の蔵と絆を深めて仕入れた良心価格の希少なお酒と酒屋熟成の熟成酒ですが、こんなお酒にも力を入れています、と西郷さん。酒屋角打ちフェスにも出品予定という個性的なお酒についてもお話を伺いました。
私の趣味なんですが、ロックミュージックが好きでして、とくにMotörheadのファンなんです。それで、こんなオフィシャルのお酒を仕入れて販売しています。左からMotörhead ボマー スモーキーショット、スウェーデン ウォッカ、シラーズ赤ワインです
アンプメーカーの公式ビールなんていうのもあるのですね!好きな人にはたまらいでしょうね!
世界的に有名なアンプメーカー、マーシャルが手がける公式ビール『アンプトアップ・ラガー』です。スコットランドのウィリアムズブラザーズ ブリューイングが醸造するこのビールは、ロックミュージックとの相性が抜群です。ロックのライブ会場にいるような高揚感を味わいたい方にぜひ!ロックファンでなくても、その爽快な味わいにきっと魅了されるはずです
棚田を守る酒
棚田酒は、こんなに多種多様なんですね
2017年から、棚田の景観保全活動を行っているグループと連携し、日本酒を通じて棚田を応援する活動を始めました。
酒屋であり、角打ちという私たちの強みを活かし、各地域で大切に育てられた米を使った日本酒の背景やストーリーを、お客様に詳しくお伝えしています。
長野の姥捨、千葉の大山千枚田など、日本各地の棚田で作られた日本酒を豊富に取り揃え、日本一の品揃えを目指しています
棚田は、美しい景観を守り、伝統文化を継承するだけでなく、土砂崩れを防ぎ、水源を涵養するなど、地域全体の環境保全に欠かせない役割を担っています。棚田米で醸されたお酒は、そんな自然と人の共生の象徴と言えるでしょう。
私たちも、実際に棚田で草刈り体験をしたり、地域の魅力を発信したりと、様々な活動を通じて棚田を応援しています。
酒屋角打ちフェスなど、様々な機会を通じて、棚田酒の美味しさと、その背景にある物語をぜひご堪能ください
趣味のロックと棚田酒・熟成酒を扱う酒屋さんという、一見すると結びつかないような組み合わせですが、お酒の持つエンターテイメント性や、その背景にあるストーリー、文化的な価値を巧みに融合させた、とても素敵なお店でした。取材にご協力いただき、ありがとうございました。
筆者 塩見なゆ (酒場案内人 / Syupo)